第拾号 『g@me.』


山田とゐち30歳、スーパーの裏口で大きなダンボールを見つけると、即座にその中へ入り体育座りを堪能する『ダンボールハウスボーイ』です。

会社帰り、今夜も小生は独り『眠らぬ街歌舞伎町』をうつろな目をして歩く。
そんな小生のポッカリ空いた心の穴を埋めてくれるオアシス『ゲームセンター』
今回はそこで出逢った熱き男達を紹介します。

店内に入るや否や目に飛び込んでくるのは『愛と夢と感動のファンタヂックマシン』UFOキャッチャー。
そこに流行遅れのサンバイザーと昆虫の目の様な色眼鏡を身に付けた男が、竜巻の様な荒い鼻息でマシンのガラスを曇らせて夢と浪漫を追い求めていた。
その隣で両手を組み『お願いポーズ』状態のaiko似の小柄な可愛い彼女。
彼はそんな彼女の笑顔を得る為に『パペットマペットの牛君カエル君人形』のW獲得に闘志を燃やしているのだ。

『たっくん頑張って!カエル君後一息だょ』

彼は幾度も両替機に向かい、夏目漱石を100円玉に替え、わき目も振らず病的な表情で再びマシンに戻り、不安定なクレーンを揺り動かす。

その努力のかいあって、暫くしてカエル君ゲット!
彼は『ぅおっしゃーっ!!』と勝利の雄叫びをあげ、満面の笑みで彼女にそれを渡す。

『たっくんすごぉい』 『次は牛君ねっ』

たっくん凄いよ、男だよ…
それにしても女というものは勝手である。
可愛い顔してお願いポーズすりゃ、何でも夢を叶えてくれると思ってやがる。
でも気付いてやれ、彼女よ!!
実際の彼は闘志を燃やしているのではなく、自腹の投資で燃やされてるのだという事を!!

小生の心の訴えをよそに、男は昆虫サングラスを外し再び気合を入れ直す。

…なんと彼の目は驚く程に小粒!!
だが彼のそのゴマの様な目は力強く一点を見つめ、メラメラと炎が出ていたのです。そして…

『キャー!!』

彼女の黄色い歓声が店内にこだまする。
小生が彼を観察するようになってから、既に5,000円は投資していただろうか、遂に念願の牛君ゲット!
早速男は右手に牛君、左手にカエル君を取付け、感動の一言を発する。

『パペットマペット♪』

この瞬間を彼女に見せたいが為に彼は財布の中身と共に灰となったのだ。
自然に小生の目から熱い物が溢れ出た。

しかし彼は知っているのだろうか…その人形がセットで1,980円で売られているという事を。



【追記】

今回はゲーセンネタ。
UFOキャッチャーやプリクラって、すぐに飽きられるものだと思ってたけど息が長いね。
景品もしっかりしたモノが増えてきたし、プリクラも綺麗に撮れる機械が増えてきた。
この物語に出てくる男は、まさに過去のオイラである…
何年か前『どこでもいっしょ』のトロが流行ったが、当時付き合っていた『トロコレクター』の彼女を喜ばせようと、トロの大きなぬいぐるみをゲットする為に必死になった事があった。
少なく見積もっても3000円は使っただろうか…
オイラはこんなくだらない事でも意地を張りたがる性分で、あの時このトロをゲットするまでは絶対にその場を動こうとしなかった。
周りには人だかりが出来、知らない人から『頑張れ〜』等と声をかけられる始末。
そしてオイラがゲットした時、何故か周りから拍手が沸き起こった。
今思うとあの時のオイラは『英雄』というより『恥さらし』である…
しかし彼女は喜んでくれた。
オイラはその笑顔が見たかったんだ。


著者近影


   
Copyright (c)Toichi Tsushin [Yamada Toichi] 2004. All Rights Reserved.