第七号 『新・居酒屋ゆうれい』


山田とゐち30歳、 映画館でチケットをもぎられる前に、係員がもぎり易いようにわざわざ折り目を作ってチョットだけ破ってから渡している、心優しき男です。

前号続き

盛り上がりもなく2時間経過。
店員が『お会計お願いします』と伝票を持ってやってきました。
するとドラリーマンの厚い体の陰から、突然『僕計算します』と伝票を取り上げた男がいました。
身長160cm位、昭和初期の少年の様にカリアゲヘア、顔も小学生時代にいた優等生っぽいお坊ちゃま風、一人で居酒屋に入ったら間違って補導されてもおかしくない、赤い蝶ネクタイが似合いそうな『ミクロキッズ』でした。
『僕、暗算1級だから任せて!』
この男、今まで静かだったのに、まるでこの時を待ってましたと言わんばかりに得意気に伝票とにらめっこ。
「そうだ!ここでいい所を見せるんだ!頑張れ、チェリーボーイ!」
と小生も何となく応援したくなりました。
『はじめてのおつかい』で必死に買い物してる子供をお茶の間で応援する気持ちに近いです。

暫くして計算終了。
『1人3542円です』
1円単位までご丁寧に割り勘計算するとはこの男細かい。
それに暗算1級にしては少々時間がかかっていたような気がします。
「まあ女の子の前だもんな、よく頑張った!」
と微笑ましい光景にウットリしていた小生の視界に、ドラリーマンが飛び込んできた。
『女の子にお金払わせるの良くないよ、男は1人7000円、端数は俺が出す』

カッコイイ…

今まで曇り続けていた女性陣の顔が晴れやかになったのはこの時でした。
と同時に、ドラリーマンの好感度が群を抜いてトップにたったのもこの時だったのです。
他の男性陣は大迷惑。特にスネ夫はお金持ってないとブツブツ文句を言い出す始末。
そんな苦情をよそに、こんなに素早く動けたのか!とツッコミたくなる早さで男性陣から現金を回収。 全員から集め店員に渡そうとした時、小生はまさに『愛』を目撃する事になった。

『小銭…私出そうか?』
その天使は、先日芥川賞を受賞した綿矢りさ似の、何だか春っぽい風が心地よい癒し系美女でした。
『い、いや大丈夫、うん、ありがとう…』
『ううん、こちらこそありがとう』

その後二人はどうなったか小生には分からない。
けれど、さり気ない優しさが男心をくすぐると言うのだけは確かだとその時感じたのでした。



【追記】

合コン編の続編。
今回は、お会計について書いてみました。
やっぱこういう時って男性がお金を出さないといけないモノなのかね?
良くわかんないんだけどさ。
まあ、きっとこういう場合は当たり前なのかもね。
今回の作品を書くにあたって、情報収集の為に色々検索していたら合コンマニュアルのようなHPを見つけた。
そこには下記のような事が記されていた。
● やっぱり、男は太っ腹でなきゃね〜
● 一生懸命話を聞いてくれる人
● 食べ物を取り分けてくれる人
● 飲み物がないとすぐ気づいて注文してくれる人
● 雑学を知っていて、会話の面白い人
● ウソでもいいから誉め上手!やっぱり気分がいい
● 心理ゲームや占いなどの小ネタは効果的
…これだけ見ると非常に女性が優遇されている。
男は召使いのように女性を楽しませなくてはいけないらしい。
そこまでして女をゲットしたいか?
このマニュアルを大いに活用している奴にオイラは会ってみたい…


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